税関の裏で・・・

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Self Love/Care

20世紀末、添乗員をしていた頃、どこへ行った帰りだったかは忘れてしまったが、

お一人で参加されていたご婦人から「伊丹に着いたら空港内のお寿司屋さんへ行きましょう。」と帰りの飛行機の中でお誘いいただいていた。

疲れてはいたがせっかくのお誘い、そして行ったことのない空港内のお寿司屋さんどんなところかな、とスーツケースを取る頃には心はお寿司屋さんに飛んでいた。

税関の係員にパスポートを提示したところで「中を確認させていただいていいですか」の声が。またこんな時に限って開けるんですか、と思いながらやましいことは何もないので「どうぞ」と鍵を開けた。その時、係員がさらに二人加わった。

仕事とはいえ、しょっ中海外へ行っているのでスーツケースを開けられることは初めてではなかったが、この時はやけに念入りに調べられた。化粧ポーチも全部ひっくり返して調べられたし、資料を入れていた袋も中身を全部出された。

かなり細かく調べられたあと、「ありがとうございました。もう閉めていただいて結構です。実はあなたのスーツケースを犬が吠えましてね」「は?犬?」「麻薬犬です」「…え?そうなんですか?」

疑い晴れて税関を出たものの麻薬犬に吠えられたとは後味悪い。

よくよく考え、これは想像だが、当時出国ロビーには【V社のうがい薬には日本では麻薬と認定されている成分が入っているので外国から持ち帰らないでください】という張り紙があった。当然お客さまには毎回案内していた。V社製品は日本の薬局にはうがい薬こそなかったがトローチなどは普通に売っていて有名だったからだ。

そのツアーに行く前、やや風邪気味だったのでV社の “塗るカゼ薬” をスーツケースの中に入れていた。箱は剥き出しだったので税関の係員も見ていたはずである。もちろん、日本で買ったものだった。

V社製品は、塗るカゼ薬もトローチも同じような匂いだった。なので、もしかしたら日本に持ち込んではいけないといううがい薬も同じ匂いだったのではないか。

麻薬犬は飛行機から下ろされた荷物がターンテーブルに出てくるまでの間に仕事をする。その匂いを覚えていた彼(彼女?)は 私のスーツケースのところで「これアヤシイ匂い!!ワンワン!」と吠えたのではないか。

だとしたら納得がいく。彼はちゃんと仕事をしたのだ。

でも調べられた時間の長さには閉口した。

到着ロビーに出ると当然ながらご婦人の姿はなかった。お寿司を食べたら国内線から四国に帰るとおっしゃっていたのを思い出した。

後日会社で「麻薬犬に吠えられるわ、お寿司は食べ損なうわ散々でした」と愚痴を言ったところ上司から「それは大変だったね。だけど麻薬犬って最期は麻薬中毒で死んでしまうらしいね」と言われ、言葉が出なくなった。あれだけ仕事をして最期は麻薬中毒だなんて…  

それから麻薬の密輸入が見つかったニュースなどを見るたび心の中で拍手は送るが、早く仕事を引退したらいいのになあ、という思いも同時に湧き上がるようになった。

Yasuko

*人が好き。誰かの笑顔のお手伝いが何より好き。なのに *「母親失格だ!」という息子からの言葉で 彼が不登校になった時も十分寄り添えてなかったことを思い知る。...

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